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2009/04/07

アガスティアの葉

30歳になってすぐ、インドへ行った。

成田空港から乗ったエア・インディアにはアフリカ行きのトランジットでインドに立ち寄る人や、サイババ詣での人達が乗っていた。当時『理性のゆらぎ』という本がベストセラーになって、サイババの事はテレビでも真面目に取り上げられていた。
私達の目的は同じ著者が書いた二冊目の『アガスティアの葉』。だから機内では共通の話題に事欠く事がなく、楽しかった。
機内が楽しかったのはそれだけではない。
まず、機内モニターには常に陽気なインドのミュージカル(?)映画が流れていて、これがなかなか楽しいのだ。こういった映画がインドの標準的娯楽映画だと後で知った。
また、機内食でベジタリアン料理を選べるのである!さすがインド。どちらかというと肉が得意でない私には、さいさきの良い旅行だった。
サリー姿のスチュワーデスさんも優しかった。外国の某航空会社なんて迫力があって怖い。それに比べてエア・インディアは日本の航空会社をしのぐほどの親切ぶりだった。

トランジットのボンベイで一泊してからマドラスへ。ボンベイではインド人通訳と運転手さんが迎えに来てくれていた。

ドルをルピーに替えると結構な札束になった。ただ、このルピー、何とホチキスで閉じられている。しかも何回も閉じられているため、穴があいちゃって、どうも私ら日本人の感覚には馴染まない。

今はどうか分かないが、当時のインドを走っている車といえば国産の『アンバサダー』(私達の車もこれだった)か中古の日本車ばかりだった。(家電も中古の日本製品が多く、現地でも日本製品は評判が良いという印象だった。もっともこれはインドだけの事ではなかったが…。)

空港では私達をみつけると、早速ものごいの子供たちが走って集まって来た。空港の職員に見つかり、ものすごい力で平手打ちをうけて、もうろうとした目になっていた。インドの現実があった。

良くテレビで見るように、街中は美しいサリー姿の女性も、ヨガをやっている人も、リクシャーも、牛も、『アンバサダー』もいっしょくたになっていた。
それから人々は心から神々を信じていた。インドでは神様を沢山感じることができる。

アガスティアの館では数日かけて私の葉をさがした。
最初に指紋を取られ、質問にイエスかノーで答え続けて該当の葉をさがすのだ。通訳さんからは「決して個人情報を相手に知られるな。」と念を押される。
質問の範囲は『生年月日がいつからいつまでか?』、『父あるいは母の名前の何番目の音は?』というもので、類似した沢山の指紋グループの中から探していくのだろう。
通訳がもうひとり(現地のタミル語から英語に直す)入った。
多くの時間は館の中か、近所で過ごさなければならない。(現)主人はインド人達と腕相撲をして遊んでいて、連覇したと言って楽しげだ。
私達は他のインド人達と同じように裸足で歩いた。土の感触が気持ち良い。

近所は住宅街だった。街に比べてものごいもいなかったし、近所の子供は皆学校に行っているようだった。でも、机にボールペンなんか置いておくと、当たり前のようにすぐなくなる。
その辺に散乱した生ごみを野良山羊が片付けていく。

基本的に三食カレー。
昼は通訳さんが連れて行ってくれるレストランで。朝と夕食はホテルで。
ホテルの滞在者は自分達以外は皆白人だった。
考えてみると、思いがけずマハラジャ旅行だ。やや違和感があったが行程を無駄なくこなせたのは助かった。
館の近くには外国人はあまり来ないのだろうか。(滞在中一人だけバックパッカーの日本人の若い男がアガスティアの噂を聞いてやって来たと言っていたが。)母親に抱き抱えられた幼児が、好奇の目で私達を見つめつつ、恐怖のあまり泣いていた。母親も『見せてあげながら』あやしていた。

ある夜、地元の火祭りに人が集まっていた。沢山のインド人達に囲まれて一瞬驚いた。
私達が見に行くと、「外国人が来ているから寄付をもらおう。」と放送が入ったらしい。
通訳さんと相場のお布施をした。

さて、私の葉が出て来ると、本に書かれていた通り、両親の名前や関係、いつ生まれて今何をやっているか、過去と未来が丁寧に読みあげられた。さらに結婚や家を建てる時期などこれからの事が事細かに記されていた。

不思議と驚きはなく、どちらかというと何でこんなに詳しいのか、当時は結婚や家の事など考えもしなかったので、不信感を持った。
背筋が寒くなったのは日本に戻り何年も経ってからだった。…微妙に当たっていく…。勿論時期や内容で、当たっていないこともあるし、言われていないで起こる事件も沢山あった。
でも、起こりっこないと思って忘れていた事が当たっていく時の驚きったら。

もう一つ、これも後で気が付いたのだか、アガスティアの館では星のチャートをもらえる。チャートを作るには誕生時間と場所が必要なのだがこのチャート、何とインド行きの数年前に日本で作成したインド占星術のチャートとあまり変わらなかった。生まれた場所がなぜ分かったんだろう。
アガスティアの不思議さは実はここにある。チャートは読む人が読めば読める。(まあ、それも不思議な事だが。)ただ、正確なチャートを作るのは本来正確な誕生時間と場所が必要なため、安易ではないはずなのである。(最もこの件に関しては指紋で誕生時間と場所を見る事ができるという話もある。いずれにしてもすごいな。インド。)

こうしてインドでのほとんどの行程を葉っぱ探しに費やしたのだが、最終日、通訳さんが気をつかって近所のお寺や買い物に連れて行ってくれた。
特に買い物でサリーを買って着ると、通訳さんが喜んでくれた。下着売り場まで付き合ってくれて、しきりに恥ずかしがっていた。

人の良い通訳さんだったし、彼がいなければこんなに安心してインドに滞在できなかっただろう。
この通訳さん、運転手さんとは無駄な会話をしなかった。運転手さんも一切話しかけなかった。
ただ、通訳さんがどこかへ行くと、待ってましたとばかりに運転手さんは私達に話しかけて来た。
(現)主人は「カーストが違うのかな」と言っていた。

インドに存在する神が、なぜ日本で感じ取る事ができないか、成田の到着した時に分かった。
日本は『神』の中にあるのだ。だから感じ取れない。インドもすごいけど、日本の、この澄み切った静粛さはもっとすごいな。

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